2017-10

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雨が上がると 3 - 2010.07.07 Wed

雨が上がると虹がかかる。

ということで、何を血迷ったのか(笑)。
降ってきたので書いてみました。

いちゃラブも原作「身代わり伯爵」の雰囲気も無い自己満足です。
めずらしく主役二人+侍従と侍女の兄妹です。
3とありますが、2とつながっているようないないような。
出版社、原作者とは一切関係ありません。
何を読んでも大丈夫な方だけどうぞ。

以下、二次というもので。


「窓越しの景色  ― 青色の記憶 ― 」

手に持った明かりだけを頼りに真っ暗な道をひたひたと歩いてゆく。
この地下道を抜けて、通路を渡り、いくつかの扉をくぐった先に目的の部屋はあった。
夕暮れに上がった雨はそれまでにずいぶんと降ったのだろう。
この地下道もいつもよりはしっとりとした空気に包まれている気がする。
子供の頃に従兄弟に連れられて遊んだこの地下道は今でも変わらず縦横無尽に張り巡らされ、うっかり迷い込むと真っ暗に閉ざされた中で息絶えねばならないと、まことしやかに囁かれている。
幾代か前の先祖によって張り巡らされたこの仕掛けは、国内に散らばる他の離宮にも地上のからくりとして形を変えて残っている。
目的の部屋に住む彼の人もそのからくりによって、翻弄された経験を持つ。
視界を阻む煙の中、愛しい人の声だけを頼りに彼女を探したことをふと思い出した。

炎に巻かれた離宮の中、ようやく探し当てた彼女の背中越しには黒づくめの制服が二つ。
付き従ってきた部下と視線を交わし、彼女のそばを駆け抜けると、迷うことなくその二つの影を切り伏せた。
彼女を見つけて抱きしめるまで数瞬もかかってはいなかったと思う。
名前を呼びながら、宝剣の収められた大きな箱を抱えた彼女をそのまま抱きかかえる。
急いでこちらを向かせたがその焦点はぼんやりとして、視点が定まらない。

あの、雷雨の夜が目の前をかすめた。
激しい落雷の音と狂騒。目の前で真っ赤に染まった血の色が瞼を閉じても灼きついて離れない。
優しかった従姉の瞳が次第に生気を失っていく様子は何度も繰り返し夢の中に現れた。

繰り返し、愛しい人の名を呼び、壊れるほど肩を揺すぶっていた。
「・・・・・リヒャルト?」
その唇から、自分の名前が零れ落ちたことに、見つめあった瞳がいつもの彼女であったことにひどく安堵した。

「若君?」
心配そうな声が耳元で聞こえ、目の前に広がっていた青灰色が柔らかな橙色に変わった。
「何か気になることでもありましたか?」
顔を上げると、先程まで離宮をともに駆け抜けていた部下であるロジオンが無表情のまま立ち尽くしていた。
物思いにふけっている間に気がつくと扉の前まで到着していたらしい。
「いや、なんでもない。ミレーユはもう眠ってしまっただろうか?」
持っていた明かりを預けて、中の様子を訊ねる。
次期大公妃の護衛という任務を彼に任せることに全く躊躇いがなかった。
しかし、彼女と意気投合している様子を羨ましく思う気持ちも少なからずある。
アルテマリスにいる頃から、彼の忠誠心を疑ったことはないが、彼女に求婚をしてみたり、膝枕をしたという話を聞いて、なぜ自分より先に。という気持ちがあったのは事実だ。
だが、その点に関しては自分の間の悪さを呪うべきかも知れない。
ようやく、求婚を受け入れられたというのに、思うままに触れることもできない。
シアランに入って、騎士団暮らしをしていた間、彼がその細やかな気配りによって、他の騎士や危険から彼女の身を守っていたことを報告されていたが、できれば、自分が彼女のそばにいて守りたかった気持ちは未だに変わらない。
そして、その気持ちは現大公と次期大公妃という関係になった今でさえ・・・・・。

「随分前に、休むようにとおっしゃられましたが、まだ明かりはついているようです。」
扉の向こう側に視線を向けると先程と同じ調子で答えが返ってきた。
「そうか、また、山のような宿題と対面しているのかな?」
「そのようですね。それでは。」
そういって、彼が開けた扉をするりと抜けて中に入ると、図ったように扉が閉まった。
居間を抜けて、寝室の扉を軽くたたく。すこし、待ってみるが、いつも通り返事はないようだった。
眠っている可能性もあるので、そのまま扉を開けて中に入ることにした。

彼女は薄暗い部屋の中で、山のように積まれた書物と書類に挟まれるようにして、机の前に座っていた。
薄青色のショールをかけて、一心不乱にペンを走らせている様子は鬼気迫るものがある。
「ミレーユ、入りますよ。」
扉を開けたまま声をかけると、一瞬、びくっと肩を揺らしたが、即座に後ろを振り返ると、安心したように笑顔が返ってきた。
「おかえりなさい。リヒャルト。今日も随分と遅くなったのね。」
心なしか弾んだ声に聞こえるのは思い込みだろうか?
「ただいまかえりました。あなたも随分遅くまで頑張っていますね。」
開けたままの扉を閉めて、椅子から立ち上がった彼女のそばに近づいてゆく。

「こんな時間にどうかと思うけれど。フレッドたちとお菓子を作ったのよ。あなたにも食べてほしくて。」
そういって、手前にあるテーブルを指差した。
「たぶん今日も遅くなるだろうと思って、少し小さめに作ってみたの。味は変わらないと思うから、一口だけでも食べてもらえるかしら?」
テーブルの上には、可愛らしいリボンで結ばれた手のひらに乗るほどの小さな包みと、青いリボンで結ばれた少し大きめの包みがそれぞれ置かれていた。

「青いほうは、明日のおやつに食べてもらえたらいいなと思って。小さなほうは味見してもらえる?」
可愛らしく小首をかしげている様子は差し出されたお菓子よりもおいしそうに見える。
「もちろん。喜んで。・・・・・ついでにあなたも食べていいですか?」
少し意地悪な質問をして、違った表情を見たくなる。
「ええ、もちろん。・・・ええっ?」
目を瞠ってまじまじとこちらを見つめる様子は相変わらず可愛らしい。
「ダメなんですか?」
確認するように問いかけるが、頬がゆるむのがこらえきれずに口元に手をやると、
「・・・・・もう、またそういう意地悪をするのね。ダメよ。食べられないわ。」
一番可愛らしいふくれっつらを披露してくれた。
「・・・冗談ですよ。ほら、うしろにアンが今か今かとお茶の用意をしていますよ。」
「ええっ?」

先程きちんと閉めた扉が微かに開いている。
ミレーユが扉のほうへと振り向くと同時に、さりげなく手帳とペンを懐にしまうと、お茶の用意を持って優雅に部屋の中へと入ってきた。
「失礼いたします。お二人の仲睦まじいご様子を拝見して、アンジェリカは嬉しゅうございます。この時間なので、安眠できるハーブティにしてみました。冷めると少し苦味がありますが、ミレーユ様とお手製のお菓子と一緒でしたら大丈夫でございますわね。」
にっこりと微笑みながら、手元はすばやくお茶の準備をしている。
あっという間にテーブルの上にお茶と菓子を広げると、
「それでは失礼いたしますわ。」
にっこりと微笑んで扉の向こうへと消えていった。

パタリと閉まったはずの扉は微かに隙間が開いている。
ミレーユと互いにその隙間を確認して顔を見合わせると、
「小兄様。やめてください。何をするんですの?」
「お二人の邪魔をするんじゃない。」
声をひそめてはいるが、兄妹の争う声が聞こえた。
かと思うと間もなく、ばたばたと足音が扉の向こうに消えていった。
・・・・・扉の隙間はきちんと閉められていた。

「相変わらずなのね。アンジェリカ・・・・・。」
呆然として見送ったミレーユは気を取り直したようにこちらを見た。
「一緒に食べてはくれるんですよね?」
並べられた二つの茶器を前に確認するように訊ねると、
「それが、そうもいかないのよ。」
山のように書物が積まれた机のほうを見ながら、がっくりと落ち込んだ声で返事があった。

「どうかしたんですか?」
つられた様に机のほうへ視線を向けると、先程まで一心不乱にペンを走らせていた書類が見えた。
「・・・・・あの宿題が。どうしても最後の問題がわからないのよ。」
天井を見上げて、文字通り、頭を抱えて悩んでいる。
「お茶を飲んだら、何かひらめくかもしれませんよ?冷めると苦いといっていましたし。」
「それは・・・・・そうかもしれないわね。冷めない間にいただきます。ありがとう、リヒャルト。」
一瞬、躊躇うように表情が変わったが、考え直したようにそう言うと、急いでカップを手に取り、一口コクリと飲み込んだ。
「少し苦味があとに残るのね。でも、思っていたより苦くはないわ。温かいせいかしら?・・・・・けれど。やっぱり何も浮かばない。」
カップを戻すとそのまま頭を抱えてしまった。
「何か、手伝えることはありますか?」
負けず嫌いな彼女は宿題に関しても教育係のラウール卿と張り合っているのか、毎日のように悩んではいるが、自力でやることに全力を傾けている。
断られるとわかっていても、眉間にしわを寄せた顔を見るたびに訊ねてしまう。

「だって、リヒャルトに手伝ってもらうなんてズルはできないわ。」
じっとりと恨めしそうにこちらを見ている顔も可愛らしいが、大好きなお菓子も食べられないほど、悩んでいる様子を放り出しておくこともできない。
「答えを教えるようなことはしませんよ。とりあえず問題を見せてもらってもいいですか?」
苦笑しながら、机のほうへと向かうと、余程お手上げな状態だったのか、何も言わずに後ろをついてきた。
「最後の問題でしたね。」
机の上に広がったままの問題用紙を眺めると、下のほうが空欄になっていた。

『シアランの特産品に陶器があるが、その特徴を答えよ』

「なるほど。この問題ですね。」
「そうなの。シアランの陶器はアルテマリスでも使われていたから、知ってはいるんだけれど。特徴といわれるとわからないのよ。他の国の陶器といわれてもわからないし。」
ため息をついて問題用紙を眺めると、椅子に座って頬杖をついてしまった。
「そうですね。参考になる本は見つけられましたか?」
「これだわ!と思って、開いてみたのだけれど。」
そういって、『西大陸陶器百選』という本を指差した。
「シアラン産というものを眺めていたけれどさっぱりわからないわ。みんな奇妙な形をしているとしか。」
本を手に取り、開いてみると、一色の濃淡でで描かれている挿絵はどれも普段目にしない形をしていた。
名の知れた作家の作品は普段使われるものというより、鑑賞に堪える美術品といった趣が強いので、一つ一つの個性が際立ちすぎている。
「・・・そうですね。美術品目録ですね。けれども、アルテマリスで見たシアラン産の陶器は思い出せるのでしょう?特に印象に残っている点はどこでしたか?」
ぱたりと本を閉じながら、質問をしてみる。

「そうねえ、奇妙な形はしていなかったわ。・・・・・印象に残っているのは青色。濃い藍色になるのかしら?そうだわ!どの陶器にも同じ色が使われていた気がするわ。」
悩ましい顔から一転して、興奮気味にこちらを振り向いたその笑顔はいつにも増して可愛らしい。
「そのとおり。正解です。この菓子皿にも使われているでしょう?」
テーブルの上からお菓子が乗せられたままの皿を差し出した。ミレーユはそのまま受け取って、じっくりとお菓子ではなく、皿のほうを眺めると満足したように微笑んだ。
「本当だわ!アルテマリスで見たのもこの色だったわ。そういえば、リゼランドでも『とっておきの品物』だって観劇に行った時に舞台の上で見た気がするわ。」
手に持っていた菓子皿を元のテーブルへ戻しながら、嬉しそうに続ける。

「舞台の上ですか?」
「ええ、シアランの貿易商が活躍するお話だったわ。その頃は死んじゃったパパがシアランの貿易商だって訊いていたから、よく覚えているのよ。でも、リヒャルトに言われるまで思い出せなかったわ。」
少しはにかんだ様子で説明をしてくれる。
そのまま、問題用紙にペンを走らせ答えを書き入れ始めた。

実は彼女の父は生存していて、アルテマリスの王弟であり、現在もこの宮殿に双子の兄と一緒に滞在している。
亡命していた当時、叔父でもあるその人は身近な人物を短期間で亡くした甥の気が紛れるようにと、自らの城にある豊かな書庫を最大限に利用して、様々な知識を与えてくれた。
もともと、勉強することは嫌いではなかったが、疑問に思ったことを質問すると、思った以上に返ってくる豊かな答えと、その答えに紛れ込んだ新たな問題の答えを探したくて、片っ端から本を読みあさった。
心と体に刻み込まれていた傷が、そうしている間に少しずつ回復に向かっていることに気がつかなかったくらいだ。
数ヶ月たって、城を離れなくてはならないと知ったとき、当時は認めたくなかったが、離れがたい気持ちになったのは今思うと当たり前のことだった。窓越しに景色を眺めることしかできなかった自分が、自ら図書室へと通うようになったことで、案内してくれる叔父の笑顔が心からのものに変わったことが思い出される。
その後、彼の息子であり、親友でもあるフレッドが事あるごとに城に連れて行ってくれ、そのたびに親友の実の父であるということがひどく羨ましくて、彼に負けないようにむさぼるように知識を吸収していった。

「さすが、リヒャルトね。勉強を教えるのも上手なのね。」
可愛らしい声で父親と同じ青灰色の瞳を輝かせて、気恥ずかしくなるような褒め言葉を与えてくれる。
「ちがいますよ。勉強を教えるのが上手なのはエドゥアルト様ですよ。・・・・・シアランにいた頃にも、様々な家庭教師がついて教えてくれていましたが、エドゥアルト様の授業が一番楽しかったですよ。」
苦笑しながら、訂正をすると、疑わしげにこちらを振り返った。

「ええ?パパが?」
答えを書き終わったのか。ペンと問題用紙をまとめて片付けると、彼女はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「ええ、王太子としての授業は責務でしたが、エドゥアルト様の授業は純粋に興味のあるところを丁寧に教えていただきました。」
彼女の手をとって、お茶の用意されているテーブルへと促した。

懐かしい授業を思い出すと自然に笑みが浮かぶ。アルテマリスでも有数の蔵書数を誇るモーリッツ城の持ち主である叔父は、その知識量でも国内で有数の人材であった。
母である先代の第二王妃の権力欲のために、王族としての務めに嫌気が差していたのだろうか。貴族としての教養だけではなく、庶民の娯楽や食生活、職人の使う道具など、多岐に渡って描かれている書物を収集していた。
そうして得た知識は、城の周辺だけではあったが、農作物の収穫量を増やすため、作業の効率を高めるために、自らが率先して広めていた。
「果物を贈ると、ジャムになって返ってくるんだよ。たくさん収穫できると嬉しいだろう?」
うきうきとした様子で、領民とともに果物を収穫している様子は、王族らしくないといえば王族らしくなかった。
のちに、そのジャムが特別な意味を持つことは息子であるフレッドから、こっそりと教えてもらうことになったが。

「パパの授業ねえ。」
宿題を片付け終わり、うきうきとした様子でテーブルに着くと、信じられないというように首をかしげている。
「パパはお城にいるときはずっとあたしを着せ替え人形にしていただけだし・・・・・。恐ろしいことに、女装したフレッドを描いた肖像画が、壁一面どころか、部屋のあらゆる壁という壁に飾られた部屋とかあって・・・・・嬉しそうに案内してくれた時はちょっと困ったわ。」
その部屋を思い出したのか、げんなりとした表情でお菓子を見つめた。
「そうなんですか?女装以外の格好をしたフレッドの肖像画もあったでしょう?」
画家の滞在しているときに何度か居合わせたこともあったのだが、その時はフレッドは女装をしていなかった気がする。
「ええ、女装していないフレッドの肖像画の間はフレッド自身が案内してくれたわ。養子に入ってから毎月のように描いてもらっていたらしくて・・・・・もう、飾るどころじゃなかったわ・・・・・。」
思い出しているのか、あらぬ方向を向いて遠い目をしてしまった。

「・・・・・それでは、お菓子をいただきましょうか。」
見てはいけないものを思い出してしまった彼女に申し訳なく思い、苦笑交じりに提案すると、
「ええ、ぜひ。」
気を取り直したようににっこりと微笑んでくれた。
「それにしても、シアラン産の陶器にはこの色が使われていることはわかったけれど。どうしてなの?」
菓子皿を見つめ、考えていたかと思うと、不思議そうな顔をして質問をしてきた。
「・・・・・そうですね。この青色は何の色だと思いますか?」
「うーん。なにかしら・・・・・。そうねぇ。シアランの貴色は青色だけれど空の色とは違う気がするし。湖の色とも違う気がするし。・・・・・あ、そういえば、『月の涙』が似たような色をしていた気がするわ。それにセシリア様から預かった『海のしずく』を思い出すわ。海・・・・・そういえばあたしも見たことがないわね。どんな色をしているの?」
まだ見ぬ海の色を想像してか、興味津々といった顔をしてこちらを覗き込む。
その顔もいつまでも見つめていたいと思った。

「港の視察ということで、俺も何度も海を間近にしたことがあります。その日の天気によっても、いろいろな色に変わるのですが、シアランの海はこの深い青色をしているんです。アルテマリスで育った母はシアランの青い海を見て随分と感激したようです。その頃は、俺も小さかったので、母が一生懸命に陶芸に打ち込んでいたことはわかりましたが、何故そこまで夢中になっていたのかよくわからなかったんです。何度も繰り返して試作品を作っていたのですが、ようやくこの色が出たときは嬉しそうに、父や子供達を呼んでお披露目をしてくれました。職人達も、そんな母の姿に敬意を示してくれて・・・・・それ以来、この色を使ってくれているんですよ。」
遠い日を思い出して、説明をすると、
「・・・・・そうだったの。お母様の思い出の色だったのね。」
しみじみとした口調で答えると、菓子皿の青い模様を優しく指先で触れ始めた。
母の気持ちを優しく汲み取ってくれているようなその動きに、思わずその指先を絡めとると、一瞬、驚いたようにこちらを見つめたが、
「そんなにお母様が感激したシアランの海なら、あたしもぜひ見てみたいわ。」
柔らかな微笑とともにゆっくりと握り返してくれた。
「必ず、近いうちに。」
ぎゅっと一度強く握ってその手を離すと、そっと彼女のほうから小指と小指を絡めてきた。
「約束ね。」
頬を染めて照れたように笑うと、急いで絡めた小指を外してしまった。名残惜しそうにその指先を見ていると、そのまま、皿の上のお菓子をつまみとった。

「はい、今度こそお菓子を味見してくれる?一口サイズなの。」
彼女は左手で右手首をつかまえ、手のひらを開くように視線で促すと、その上に右手でお菓子を載せようとした。
「そのままでいいですよ。」
右手はそのまま彼女の手を包み、左手で菓子ごと彼女の右手を口元へ持っていく。
「し、しかたないわね・・・・・。は、はい、あーん。」
ぐっと詰まったようにつぶやきながらも、逃がす気がないのを悟ったのか、開き直ったように、引きつった笑みを浮かべたまま、お決まりの台詞を口にした。
「いただきます。」
甘酸っぱい味が口の中に広がり、知らず笑みがこぼれた。
「おいしいです。あなたの味ですね。」
握った両手はそのままに、じっと瞳を見つめてそういうと、
「あ、あたしの味って何?」
動揺しきった様子で両手をほどこうとするので、逃げられないように強い力でつかまえた。
「俺にとって最高の味だということです。」
「そ、そんなの・・・・・。どんな味かわからないじゃない。相変わらずリヒャルトの味見は参考にならないわ・・・・・。」
両手は逃げられないとあきらめたのかそのままで、視線をテーブルに落とす。
赤く染まった頬が愛しくて、右手を離すと、急いで左頬をおさえている。
「じゃあ、次はミレーユの番ですね。」
右手で残っていたもう一つのお菓子をつまむと、彼女の口元へと差し出した。
「はい、口をあけて。」

「・・・・・あなたって、食べてるときより食べさせてくれているときのほうが嬉しそうなのよね。やっぱり美味しくなかったのかしら。今回は自信作だったんだけど・・・・・。」
つぶやきながらもお菓子の誘惑には勝てないのか、ゆっくりと口を開ける。
「そんなことはないですよ。甘酸っぱくて、おいしかったです。ただ、お菓子を食べているときのあなたの顔には敵わないだけですよ。」
「それとこれとは関係ないと思うのだけれど。」
口に含まれたお菓子は見る間に咀嚼されて、コクリとのどを通り過ぎていった。
「おいしかったわ。」
拗ねたような顔をして宣言すると、そのままカップに手を伸ばし、ハーブティを口にした。
「さっきより、少し苦味が増しているかしら?でも、お菓子と一緒だから、ちょうどいいわね。」
アンジェリカの言っていたように苦味が増しているのを確認しつつも、お菓子との味の相性の良さに満足げな笑顔を見せてくれた。
「それに、安眠をもたらす作用があるっていってたし。宿題も終わって、ようやく安心して眠ることができるわ。」
あくびが出そうになったのか、口元を押さえて、目を瞬くと涙で潤んでいた。

「そうでしたね。明日も妃教育が待っていましたね。」
名残惜しそうに、重ねていた左手をぎゅっと握ると、
「あなたもお仕事が待っているんでしょう?午前中にはまた・・・・・制服姿だけれど、お仕事を届けに行くわね。会えるのは嬉しいけれど、あなたは大変なのよね・・・・・。何か手伝えるといいのだけれど。」
考えをめぐらしてはみたけれど、良案は浮かばなかったらしく、
「心の中で応援しているわ。」
両手でぎゅっと左手を包み込むと、決意を表明してくれた。その両手の上から右手を重ねる。
「心強いですね。でも、あなたの声を聞くだけでも、顔を見るだけでも元気が出るから、大丈夫ですよ。それに、このお菓子は俺がもらってもいいんですよね?」
笑いながら、青いリボンの包みに視線を移す。
「・・・・・忘れるところだったわ。ちゃんと今から持ち帰って明日食べてね。」
はっと思い出したように包みに視線を向けると、改めてこちらを見つめる。
「約束しますよ。」
重ね合わせていた両手を一度ほどく。小指を彼女の小指に絡めると、
「約束ね。」
彼女は満足したような笑顔を浮かべると、小指をほどいた。

居間を抜けて、扉を開けると後からついてきてくれた彼女は微笑んで見送ってくれた。
「おやすみなさい。いい夢を。」
手をとって、軽く甲に口づけると、
「おやすみなさい。いい夢を。」
相変わらず照れたように頬を染めると、小さな声で答えてくれた。

ぱたりと扉を閉めて、左手に持った包みを見つめる。
リボンと同じ深い青色が遠い家族の記憶を呼びおこしてくれた。

―終わり―

いろいろとすみませんでした。
何故こんなにも長くなったのか・・・・・orz。
「窓越し」にいただいたコメントでミレーユのお菓子をとりあえず食べさせてみよう。
ということだったはずが・・・・・。
パパと母上については完全な捏造かと思いますので、匿名でもかまいませんので情報お願いします。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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● COMMENT ●

相馬さま

コメントありがとうございます!
舞い上がってしまって挙動不審です(笑)。
告白するとみがはく二次との出会いは相馬さまが最初でした!
いつも甘いお話をご馳走様です!(笑)。
相馬さまテイストの両親の話は楽しみです!!是非(笑)。

ミレーユには素敵なところを一切見せられないエドゥアルトが愛しいです。

そんなパパが大好きです(笑)。
最後までお付き合いくださってありがとうございました。

うっとり・・・

こちらでははじめまして、相馬です。
なんだか、とってもしっとりしたお話にうっとりしました…!
シアランの海の色を出せたとき、リヒャルトのお母様は嬉しかっただろうなあ、と思います。
リヒャルトの両親の話とか、書いてみたくなりました。リヒャルトがあんなに口説く人なので、もしかしてご両親もその要素があったりするんじゃないかと…(笑)

紳士な殿下が素敵でした!
そして、ミレーユには素敵なところを一切見せられないエドゥアルトが愛しいです。
素敵な作品をありがとうございました!

sakura様

コメントありがとうございました。

シリーズ・・・(笑)ありがとうございます。窓とか扉とか好きみたいです(笑)。
リヒミレ・・・sakura様にそういっていただくとほっとします(笑)。
殿下大丈夫でしたか(笑)。ただのおかしな人になっていないか心配でした。
紳士なのは単に私が手で気持ちを伝える表現が好きなだけです(笑)。
読むと書くでは大違いでしたが・・・orz。
殿下・・・握って離さないので(笑)。パパに乱入してもらおうか迷いました(笑)。
ハーブティはイタリア原産のカリフォルニアンポピーというのを参考に。飲んだことないのでこちらも捏造。
寝室・・・花嫁修業だと寝顔だけでも見に来るとあったので。・・・・・娘の寝顔を見て癒される父親!?他人事に思えない(笑)。

コメントにヒントをいただいたので七夕から海の日までで(笑)。
書きたい衝動を満足させていただきました。楽しかったです(笑)。
捏造しすぎですが(遠い目)。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

桔梗さま

コメントありがとうございます。

お上品・・・ほっとしました(笑)。
パパとママの恋愛が気になって仕方ないのでした(笑)。
0巻が楽しみでしょうがないです(笑)。
ネタあれこれ・・・捏造するにもほどがあるという(遠い目)。
各建築物の見取り図もほしいです(笑)。
ミレーユの部屋の位置関係とか、実はよくわかっていないのでした・・・。
秘宝館・・・どこでしょうね?三重県?(笑)
別邸の管理はフレッドさんみたいなので別邸にあるんでしょうかねえ?
教師の資質・・・そのあたりがママとの恋愛の鍵かなあ?とひそかに思っていたりするのですが(笑)。
カテゴリ・・・思っていたより増えました(笑)。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

リヒミレ!

こんばんは。
新作を拝読させて頂きました!

物凄く面白かったです!
前作の『窓越しの景色』がラウール視点で、今作はリヒャルト視点の『窓越しの景色』なのですね!
シリーズに出来そうなくらいmoaさまが考えていらっしゃるので、素晴らしいと思いました!

そして、リヒミレの二人がラブラブで、読みながら幸せな気分になりました。
やっぱり、ミレーユはリヒャルトの前だと自然に乙女になるのですね。
前作のミレーユお手製のお菓子を、リヒャルトが食べてくれて嬉しかったです!
ありがとうございます!
寝室に二人っきりだというのに、紳士リヒャルトが素晴らしかったです(笑)。

更に、陶器やエドパパや過去のリヒャルトの設定にも感服しました!
こんなに細かな設定を考えながらの執筆は、かなり時間が掛かったのではないでしょうか。
読者としては、素敵なお話が読めて嬉しかったです。
素晴らしい大作をありがとうございました!

色々とお上品でした(笑)。
エドパパとか、クラウディーネさまとかの親世代がお好きですよね。

陶芸ネタとか、エドパパの学問ネタとか、肖像画ネタも楽しませて頂きました。
そういえば、フレッドの秘宝館ってどこにあるのでしょうか(笑)?
エドパパ、学問好きそうですもんね。教師としての資質はあるのでしょうか(笑)。
三つも書かれたんだからカテゴリーをお作りになればいいのにと思います。
楽しませて頂きました。


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