2017-10

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雨が上がると 7 - 2010.08.31 Tue

雨が上がると虹がかかる。

ということで、何を血迷ったのか(笑)。
降ってきたので書いてみました。

いちゃラブも原作「身代わり伯爵」の雰囲気も無い自己満足です。
双子と相手役です。
6のおまけ的な話のはず。

出版社、原作者とは一切関係ありません。
何を読んでも大丈夫な方だけどうぞ。

以下、二次というもので。




『彼方からの便り』


コンコンとノックの音が響く。
「フレッド、呼んでいるって聞いたけど。」
扉を開けて、リヒャルトはミレーユの部屋へとすたすたと入ってきた。
「ああ、リヒャルト。忙しいところに悪いね。先日、アルテマリスに送った手紙の返事が届いたから。きみも興味があるかな?と思ってさ。」
迎えに立ち上がったフレッドは、にっこりと微笑んだ。

「ああ、カインに宛てて送っていたんだっけ。その後何か新しい情報が入ったのか?」
エドゥアルト様に託された内容も気になったままだ。
「目新しいものはないけれど・・・・・。ほら、セシリアさまの贈り物が入っていたよ。」
険しい顔をしていたのか、フレッドは気を引き立てるように目の前を指差した。
二人の間に置かれたテーブルの上には、二つの小さな包みと、それよりもふた周りほど大きい包みが置いてある。
その上には、白百合の透かしが入った小さなカードがのせてあった。

『無事を祈って  白百合姫』

「これだけしか書いてなかったんだけれど。カインからの手紙には、ミレーユとリヒャルトとぼくに。ということらしいよ。一人で開けるのもなんだから、一緒に開けようと思ってね。」
「ミレーユはいいのか?」
訝しげにリヒャルトが訊ねる。三人にという事の割りにはこの場にミレーユがいないことが不思議だった。

「うーん。今、山のような宿題と戦っているからね。邪魔をするのは可哀相かな?と。どうせ、このあときみがミレーユに届けてくれるだろ?この大きい方の包みには手紙も一緒についていて宛名がミレーユになっているから、この二つの包みがどちらのものか、きみと確認したかったんだよ。」
さりげなく、この先の予定についての正当性を添えられる。
「なるほどね。それなら、一緒に開けてみようか。」
リヒャルトはうなずくと、並んだ二つのうちの一つを手に取った。
「じゃあ、ぼくはこちらを。」
フレッドはもう片方を手に取ると、まぶしい笑顔で微笑んだ。

広げられた包みの片方には、濃青色のハンカチーフがもう片方には薄青色のハンカチーフが折り畳まれていた。
「色が違うねー。どっちがどっちかな?」
瞳の色と同じということはわかっているだろうに・・・・・。
わざとらしいその言い方に、リヒャルトは送り主の事を思い出して苦笑する。

お互い意地っ張りな二人は、周りの甚大な被害をものともせずに、毎回じゃれあっていた。
彼が現れる以前の姿にはもう戻らないだろうと思えるけれど。
気のいい元同僚達が彼のいない間、その主をどうやって慰めているのか。気になるところではある。
そんなことを思いながらも、フレッドの広げられた薄青色のハンカチーフと同じように、リヒャルトはもう片方の濃青色を広げた。
広げられたハンカチーフには、見事な白薔薇と白百合の刺繍が施されていた。

「・・・・・さすがはセシリアさまだね。」
美しいものを見慣れているはずのフレッドでさえ、感嘆の溜息と共にその出来栄えを称える。
「ああ。手先が器用な方だからね・・・・・。」
アルテマリスにいる頃、フレッドが贈った本に丁寧に刺繍が施されたカバーをかけていたことを思い出す。
本棚に並べられた背に見える模様が一冊一冊違っていたので、何かの折に、そのことについて訊いてみたところ、贈られた小説の内容によって、その刺繍の意匠を変えているのだ。とこっそり教えてくれた。

本を贈られるたびに、
「新しい意匠を覚えることができるから、それはそれでよいのですわ。」
と、つんと澄ました表情だったが、真っ赤になって言い訳していたことも一緒に思い出した。

「白薔薇ということは、こちらの薄青色がぼくだと思っていいのかな?」
隣で、フレッドが確認するように覗き込んできた。施された白百合の刺繍をじっと食い入るように見つめている。
これだけ熱心に鑑賞されていると知ったら、制作した本人もさぞかし喜んでいるだろう。

そっぽを向いて、真っ赤な顔をして、「た、たまたま時間があっただけですのよ。シアランが安定することはアルテマリスのためになりますものね。王女として当然のことですわ。それに、伯爵はわたくしの騎士団の団長ですものね。留守居役は完璧に他の騎士たちがやってくれましたけれど、名目上の団長がいないと困りますのよ。」などと嬉しそうな声音を隠し切れずに言い放っている姿が目に浮かんだ。

「そうだな。白百合は俺宛てだと考えていいだろう。」
想像した姿に思わず微笑みながらそう答えると、
「それじゃあ、ミレーユにこっちの包みとお手紙を渡してきてもらっていいかな?」
フレッドからまぶしい笑顔で包みを渡され、そのまま廊下への扉を開け放たれる。
そのまま、ひらひらと手を振って見送られた。

「ミレーユ、入りますよ?」
通いなれた扉の前で、ノックをした後、声をかける。
机の上で悪戦苦闘していたのだろう。扉を開けた先に見えた彼女は涙目で振り返った。
そして、
「リヒャルト、全然わからないの。」
と訴えた。

思わず苦笑しながら、机のそばに行く。
「昨日の宿題がそっくりそのまま返されてきたの・・・・・。どこが違うのかわからないのよ・・・・・。」
涙目で訴える姿は、とても可愛らしかったが、いつまでも宿題が終わってくれないと、折角の二人の時間も始まらない。
それはかなり残念だ。

早速、机の上に広がっていた問題と回答を照らし合わせてみると、単語のつづりが違っていたことに気がついた。
「ミレーユ。わかりましたよ。この単語とこの単語のつづりが違うんです。答えとしてはあっていると思いますよ。」
苦笑しながら指摘すると、ミレーユは急いで辞書を広げ始めた。
「あ!本当だ!・・・・・・よりによって、この単語のつづりが違っていたなんて。だから、全部やり直しだったのね・・・・・。」
がっくりと肩を落として、落ち込む様子にどんな慰めの言葉をかけたらいいかと思っていると、
「よし!とりあえず単語のつづりを直したら終わるわね。ちょっとまっててね!」
あっという間に気合を入れなおして、解答用紙に取りかかり始めてしまった。

部屋の隅に置かれた長椅子でアンジェリカの用意したお茶を飲んでいる間に、ミレーユはやり直しが終わったようだった。
うーんと両腕を上げて伸びをすると、椅子から立ち上がって、
「やっと終わったのー。」
達成感に包まれた満面の笑顔で近づいてきた。

「さすが、リヒャルトね!夕方からずうっと考えていたんだけれど、ちっともわからなかったのよ。晩御飯は美味しかったけれど、ちっとも落ち着いて食べれなかったわ。」
長椅子の隣にゆっくりと座ると、食事の内容を思い出しているのか、憤慨した様子で訴えた。

「そうでしたか。あの間違いなら、ブルック卿が採点の時に指摘してあってもいいと思いますけどね。」
採点の跡がない様な解答用紙を思い出しながら、そうつぶやくと、
「リヒャルトもそう思う?実はこの前、もっときちんと教えてください!って言ってから、ちょっとは丁寧に教えてくれるようになったのよ。だから、以前よりはちょっとは宿題もはかどるようになったのだけれど。今回は一切説明が無かったわね・・・・・。」
同意を得たことに満足したようだったが、げんなりとした様子でミレーユは答える。

「やり直しを渡されたときに、説明はなかったんですか?」
ふと思いついて、訊いてみると、
「ええ、今日はジェラルド殿下のお見舞いに行っていたのよ。部屋に帰ってきたら、フレッドに宿題のやり直しをラウール先輩が置いていったって聞いて。・・・・・そういえば、いつもはアレックスが持ってくるのに、おかしいわね。」
小首を傾げて不思議そうな顔になる。いつもの手順と違うという事は、
「その時に教えるつもりだったんじゃないですか?」
そう思って、ミレーユの手をとって宥める様に重ねる。
「・・・・・だったらどこかに書いておいて欲しいわ。」
不満気にそう言うと、可愛らしいふくれっ面を披露してくれた。

「それで、今日はジェラルド殿下のお見舞いに行ったんですか?」
気を取り直すように訊ねてみる。
「ええ、お見舞いにお菓子を作ったの。アンジェリカは用意していないかしら?」
きょろきょろと周りを見回すが、それらしいものは置いていない。
代わりに、先ほど持ってきたセシリアの包みが目に留まった。

「・・・・・これは何かしら?」
包みの上にのせられた白百合の透かしの入った封筒の宛名はミレーユ宛になっている。
「フレッドが、白百合姫からの贈り物だって言っていましたよ。」
「セシリアさまから?」
「はい。俺とフレッドは先にこちらの贈り物をいただきました。」
重ねた手をぎゅっと握り締めてから離すと、先ほどの濃青色のハンカチーフを取り出して、ミレーユの目の前で広げて見せた。
「・・・・・なんて綺麗な白百合の刺繍。」
目を瞠ってじっくりと見入っている様子を微笑ましく思いながら、
「フレッドの方は、瞳の色と同じ青灰色の生地に白薔薇の刺繍がされていましたよ。」
と説明すると、
「・・・・・素晴らしいご趣味というか、特技よね・・・・・。」
とうっとりとしてつぶやいた。

ひとしきり、白百合を鑑賞した後、ミレーユは封筒から手紙を取り出してざっと目を通した。
最後の数行を読み終わる頃には、興奮したのだろうか、頬が薔薇色に染まっていた。

「リヒャルトが無事に名誉を回復したこと、あたしもフレッドもみんな無事に元気でやっていると聞いて、安心しているとあるわ。待っている間に、無事を祈って、あなた達の刺繍とあたしのショールを編んだって・・・。じゃあ、こっちの包みはショールが入っているのね。」
手紙をテーブルの上において、包みを開くと、先ほどのフレッド宛てのハンカチーフと同じ色味のレースで編まれたショールが現れた。

「あなたの瞳の色ですね。」
ミレーユの瞳を確認しながら、見比べてみる。これほどよく似た色を見つけてくるのも大変だったであろう。
「・・・・・こんなに立派なもの。いただいてもいいのかしら?」
じっとショールを見つめていた顔を上げて、ミレーユは問いかける。
「わざわざ瞳の色と同じ糸を使っていますからね。祈りを込めて編んだものをいらないと言われた方が悲しいと思いますよ。」
いつまでも小さなままの妹。守らなくてはならない存在。
そう思っていたけれど、こんなに立派な贈り物ができるようになっていたことを誇りに思う。

「俺がかけてあげますよ。」
そうして、ミレーユから手渡してもらい、彼女にはこちらの方に背を向けるように促す。
ゆっくりとショールを広げて肩にかけると、
「ど、どうかしら?」
ミレーユは肩越しに振り返って、少しはにかんだように微笑んだ。
「よく似合いますよ。」
そう耳元でささやいて、ゆっくりと後ろから抱きしめた。

「ちょ、ちょっとリヒャルト!?」
突然の密着ぶりに動揺して、ミレーユが非難の声を上げる。
「いやですか?」
「いやじゃないけど・・・・・。恥ずかしいのよ。」
耳元で囁かれる熱を帯びた言葉に、つられた様にミレーユの頬も熱くなる。

リヒャルトの吐息だけの笑い声が耳をくすぐる。
またからかっているのかと、ミレーユはむっとして腕を外そうとしたが、抱きしめる腕の力強さが増しただけだった。
「・・・・・マリーは、小さい頃から体が弱くて、よく離宮へと療養に通っていました。」
囁くほど小さな声で話し始めたリヒャルトの声は少し寂しそうだった。
「離宮の背比べが残っていたのを、ロジオンに見せてもらったわ。セシリアさまの印がとてもたくさんあったわ。」
案内された隠し部屋には、そのほかにも、大公夫妻や他の兄妹の背比べの痕も残っていた。

「離宮と宮殿を往復するだけで、当時のマリーにとっては、一大旅行でした。多忙な父や母が常に付き添うことはできないので、侍女に伴われていくのですが、挨拶をするときはいつも目に一杯涙をためていましたね。」
小さなセシリアが、真っ赤な顔をして懸命に涙をこらえる姿が目に浮かんだ。

ジークの部屋にあった肖像画に描かれた、赤みがかった栗色の髪の小さな女の子。
ミレーユが出会ったときは鮮やかな赤毛の可憐な・過激な少女であった。
けれども、リヒャルトの思い出の中では小さな病弱な女の子なのだ。

「母がまだ小さなマリーを気にして、療養に行く時は母のショールを持って行くように渡していたんですよ。さみしくないようにとね。療養先に見舞いにいくと、いつも母のショールを羽織っていました。大きな母のショールにくるまれたマリーは余計に小さく見えて・・・・・。会う度に背比べをねだられて、前回の印より少しでも大きくなっていると、俺のほうが安心したものです。・・・・・そういえば、母も聖誕祭のショールのおまじないはシアランでも続けていたんですよ。それを真似てマリーも一生懸命編み物をしていましたね。なかなか思ったような形にならなかったようで。いくつも小さな作品がありましたね。」
懐かしそうな色の声に変わる。
後ろから抱きしめられているので、表情は見えないが、寂しそうな様子が無くなった事にミレーユは安堵した。

「なかなか、うまく編みあがらないのよね・・・・・。よくわかるわ。」
ミレーユが同意したようにゆっくりとうなずいている。
「・・・・・そういえば、今年は期待していいんですか?」
去年の聖誕祭では、ランスロットに邪魔をされて残念ながらもらうことはできなかった。
ふと思い出して訊いてみる。

「え?ええっと・・・・・。何のこと?」
とぼけたような返事が返ってきた。一生懸命編んでくれたのだろう。そして、初めてのことだったに違いない。
フレッドにナベ敷きと言われて憤慨していた様子に、自分の為にそこまでしてくれるのかと、とても心が暖かくなった事も同時に思い出した。

「髪の色と同じ毛糸で編んだショールですよ。」
思わず残念そうな声が出てしまったのだろう。慌てたような返事が返ってきた。
「が、頑張ってみたいけれど・・・・・。間に合うかどうか、ものすごく自信がないわ。」
頼りない声で。それでも、自分の期待に応えてくれようとする姿に益々愛しさが募る。

「今年じゃなくてもいいから、そのうち編んでくれますか?」
多忙なミレーユには酷かもしれない。そう思いながらも、つい、甘えてみたくなった。
「・・・・・。そのうちでいい?でも、こんな風にセシリアさまが作ったみたいに絶対上手にならないと思うけど。」
羽織っているショールの端をもてあそびながら、恥ずかしそうにそっとつぶやいてくれる。

「もちろんです。あなたが俺のために作ってくれたものが欲しいんですよ。」
ショールをつまんでいた指に両手を重ねて指を絡める。ミレーユをそっと盗み見ると、耳元から鎖骨にかけてうっすらと朱色に染まっていた。思わず目を閉じて、惹かれるままにその首筋に顔を寄せた。
「ちょ、ちょっとリヒャルト!」
リヒャルトの柔らかい髪がうなじをくすぐったのだろうか。
ミレーユは焦ったように非難の声を上げると、逃げ出そうと身を捩った。

「くすぐったかったですか?」
あまりにも焦って逃げ出す様子に、思わず顔を離して耳元で囁く。
「そ、そそそ、そういうことじゃないのよ?!」
びくっと固まって動きを止めたミレーユが動揺を隠し切れないまま答える。

「じゃあ、出来上がりをずっと待っていますね。」
その様子が可愛らしくて、思わず笑みを含んだままの期待の言葉を伝えた。
「・・・・・なんか、ごまかされてる気がするけど。」
低い声で答えるミレーユの表情は見えないけれど、いつもの可愛らしいふくれっ面をしているであろうことが想像できた。

「でも、あなたの体格に合わせて作るのよね。そのうち採寸させてもらわないと。」
気を取り直したようにミレーユが振り返って、確認してきた。
「もちろん、いつでも楽しみに待っていますよ。」
「あんまり期待しないで待っていてね。それに、時間もどのくらいかかるかわからないし。」
確認するように瞳を見つめると、苦笑しながら手を握り返してきてくれた。

「リヒャルトは背が高いものね。ショールも大きくなるわね。・・・・・あたしもフレッドが帰って来るたびに背丈のはかりっこをしたわ。初めてフレッドに抜かされた時はあんまり悔しくて、その夜は眠れなかったわ。」
今では懐かしい思い出だ。身代わりの時のかかとの高さだけ、フレッドと差がついてしまった。
「可愛いからいいじゃないですか。」
そう言って、つないでいた手を離して、ミレーユをぎゅっと包み込むように強く抱きしめる。
「・・・!ちょ、ちょっとリヒャルト。そういうことは恥ずかしいって言っているじゃない!!」
動揺のあまり、真っ赤な顔をしてリヒャルトの腕から逃げ出そうとする。

「・・・・・いつになったら恥ずかしくなくなるのかな?」
苦笑しながら腕をゆるめたリヒャルトの言葉に、はたと我に返ったミレーユは、
「あたしもそれを知りたいわ・・・・・。」
がっくりと肩を落としてつぶやいた。

ゆるんだ腕を外して、長椅子の上でくるりと向きを変えたミレーユはリヒャルトの手をぎゅっと握った。
「それに、後ろの扉が少し開いているのよ・・・・・。」
ミレーユの視線の先にある、閉めたはずの扉は隙間がしっかりと開いていた。

「アンジェリカ、ジェラルド殿下に差し上げたお菓子はまだあるわよね。」
扉越しに声をかけると、
「はい。ただいまご用意いたしますわ。」
残念そうな声で返事が返ってきた。

「ヴィルフリート様が仕入れてきた新作レシピなの。」
アンジェリカが用意してくれたお茶と皆で作ったお菓子を楽しみながら、ミレーユは昼間のお見舞いの顛末をリヒャルトに説明した。

「寝台でぐっすり眠っていらっしゃったけど・・・・・。とっても可愛らしかったわ!ジェラルド殿下ってリヒャルトにそっくりよね。」
アリスの授業を受けに行くたびに見かけるわけではないが、子供の好奇心で館の周辺のあちこちに出没する姿や、目が合うと、恥ずかしそうにどこかへと駆けていく様子を思い出してぽうっとしていると、
「そうですか?自分ではよくわかりませんが。・・・甥と叔父の関係ですから似ているのかもしれませんね。」
とリヒャルトはミレーユに優しく微笑んだ。

「ええ、抱きしめたくなるくらい可愛いの!ずっと見ていたい位だったわ。・・・・・そういえば、さっき小さなセシリアさまのお話を聞いたけれど、リヒャルトの小さい頃はどうだったの?あの隠し部屋で遊んだりもしたの?」
小さなリヒャルトを想像しながら、興味津々で顔を覗き込むと、
「そうですね。あの隠し部屋は広かったので、いろいろなものを持ち込んで遊んでいました。」
懐かしそうに微笑む。
「・・・・・どんな遊びをしていたの?」
ミレーユの周りにいた、下町の男の子は外で暴れまわっていた覚えしかない。ジェラルド殿下を見る限りでも、暴れまわっていたということはないだろう。

「そうですね・・・・・。盤上で陣取りゲームを作ったり、競争ゲームや包囲ゲームですね。祖父が勝負事は得意だったんですよね。それでよく教えてもらいました。父は勝負するよりゲームを作る方が好きでしたね。新しい盤上を作っては子供たちにルールを教えて勝負させていました。」
その頃を思い出したのか、リヒャルトの顔に自然と笑みが浮かぶ。

しかし、ミレーユには、一つ気になる言葉があった。
「・・・・・勝負事に強いおじいさまってハロルドさまのこと?」
「・・・?そうですよ。」

おかしな様子のミレーユを不思議に思いつつリヒャルトが答えると、
「アリスさまに、リヒャルトが小さい頃から、おじいさまに娼館に連れて行ってもらっていたことを、さっきお見舞いの時に詳しく聞いてきたの。」
視線をテーブルの上に落として、ミレーユは低い声で続けた。
「・・・・・っ!!あの、ちがいますよ?」
リヒャルトは途端に焦ったように否定すると、テーブルの上にあったミレーユの手を握り締めた。

「俺には、あなただけですからね。」
手を握られたミレーユが顔を上げると、真剣な眼差しで訴えてきた。
「・・・・・あの、リヒャルト?そんなに手を強く握られると痛いんだけど・・・・。」
あまりの迫力と言葉の内容に、ミレーユが頬を赤くしながらたじろいでいると、
「ああ、すみません。」
とリヒャルトは握っていた手をゆるめた。

「俺が愛を捧げるのは生涯ただ一人、誓ってあなただけですから。」
改めて、リヒャルトはミレーユの手を取ると、そのまま彼女の瞳を見つめた後、手の甲に口づけた。
「あ、あの。ありがとう。」
再びの攻勢に嬉しくもあるが、恥ずかしすぎて、真っ赤になったミレーユはテーブルに再び視線を落とす。
心の準備が全くなかった状態で始まったこの誓いにどう対処したらいいのかわからなくなってしまった。

そもそも、何の話をしていたのかと、心を鎮めて思い出してみる。
リヒャルトの祖父が娼館に連れて行ったという話だ。アリスに各国の人間観察を勉強していたと聞いて、少し安心したのだった。
そして、先ほど、ゲームを教えてもらっていたと聞いて、そうした女性陣とも小さなリヒャルトは勝負をして遊んでいたのかと。
そう訊きたかった筈だった。
それが何故、求愛の宣誓を受けているのだろう・・・・・。

「ミレーユ。」
いつの間にかテーブル越しにいたはずのリヒャルトが隣に来ていた。
名前を呼ばれて抱き寄せられる。
「愛しています。」
耳元で囁かれる言葉に、ミレーユは黙ってうなずく事しかできない。
ひんやりとした服の感触に熱くなった頬の熱が少しでも冷やされているといいと思った。

「・・・・・ジェラルド殿下も娼館に通わないといけないのかしら?」
ふと思いついたその事実に、ミレーユが思わずつぶやく。

突然の爆弾発言に思わずリヒャルトはミレーユから体を離した。
まじまじと顔を覗き込むとミレーユは真剣な眼差しである。
「リヒャルトも人間観察とか、ゲームとか。いろいろお勉強したんでしょう?王族の英才教育ってすごいわよね。あたしも負けていられないわね。アリスさまにもっとご指導してもらわなくっちゃ。」

爆弾発言について、自分の中で何か答えを見出したらしい。そのつぶやきに勘違いだと指摘するべきかどうか・・・・・。何かを納得した顔で、これからの修行について熱く語り始めた恋人に面食らいながら、娼館から話が外れたことに安堵する。
一体どういう妃教育を受けているのか、特殊な祖父だったことを説明するには、まだ時期尚早なのか。それとも勘違いのままにしておいた方がよいのか。悩ましい事態になりそうな予感だけをひしひしと感じながら、何かを忘れていたことに気がついた。
・・・そういえば、小さな叔父の体調は回復したのだろうか。

「ジェラルド殿下の体調は回復したんですか?」
気を取り直したように、ミレーユに訊いてみる。
「ええ、お熱は下がったそうよ。」
安堵した表情でミレーユは答える。
「大事に至らなくてよかったですね。」

「ええ、本当に。もうお菓子は食べてもらえたかしら?・・・・・そういえば、ロジオンがとっても可愛らしい包み方を知っていたんだけれど。」
そう言って、テーブルの上に広げられたお菓子の包みを持ち上げると、ミレーユは折りあとの線をたどってもう一度折りなおそうとする。
「い、意外と難しいわね。ヴィルフリートさまもああ見えて、とっても器用なのかしら?」
悔しそうに、包み紙に奮闘しながら、つぶやいている。
「ええ、少し、コツがあるのだと言っていました。俺も少し教えてもらいましたが、それ以上にロジオンは熱心に学んでいましたね。」
さりげなく、ミレーユの手元を手伝いながら、リヒャルトはお菓子の包みを元に戻してしまった。

「それにしても、修行の旅って一体どこで何をしてきたの?」
今日の最大の疑問をぶつけてみる。
「・・・・・そうですね。話すと長くなるので、今度ゆっくり時間のある時に。」
リヒャルトの視線が扉の方に向けられる。

コンコンとノックの音が響いて扉が開かれる。
「ご歓談中失礼します。そろそろお時間になりました。」
ジャック団長の姿が現れた。

「・・・・・また、これからお仕事があるのね。」
聞きたかった話が聞けなかったことも残念だが、激務に耐えなくてはならないリヒャルトの体調も心配だった。
「ええ、すみません。なかなか時間が取れなくて。」
「仕方ないわ。あまり無理しないでね。」
気持ちを切りかえて励ますように、ミレーユはにっこり笑うと、
「わかりました。」
微笑みながら、リヒャルトはミレーユの手を取って口づけた。

「それでは、いってきます。」
挨拶を口にしたリヒャルトは、ふと、気がついたようにミレーユの肩にかけたショールを直した。
「本当に、よく似合っていますよ。」
そう言って、ミレーユと視線を合わせると優しく微笑んだ。
「ありがとう。いってらっしゃい。」
リヒャルトは恋人の愛らしい笑顔に見送られて、次の仕事へと向かったのであった。


残されたミレーユは、薄青色のショールをじっと見ながら、セシリアからの手紙を思い出していた。

『お兄様のことを生涯よろしくお願いします。お義姉さまへ』

新しくできる大切な家族が一人ではないことに、ミレーユは胸があたたかくなるのだった。

~終わり~

最後までお付き合いくださりありがとうございました。
・・・・・面影のおまけ(笑)。
勢いだけで書きましたが大丈夫だったでしょうか?
イロイロトスミマセンデシタ。
・・・・・一応殿下の誕生日月だったし。ということで。
某所での肩ネタとか(笑)うなじじゃなくて耳元になっちゃったなとか(笑)。

2010.9.6 殿下の幸せをテーマに加筆・・・・・。2010.9.7 修正。
無駄に長くてクドイカモ・・・・・。
sakura様、桔梗さまご協力ありがとうございました!!
コメントにsakura様の可愛らしいセシリアが!!ぜひご覧になってくださいね。

暑い中、読みづらい代物に最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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● COMMENT ●

sakura様

コメントありがとうございます!

sakura様のセシリアが可愛すぎます!!
ご馳走様です!さすがです!
動揺してきて言葉もありません(笑)。

手に接吻・・・パパに許されてる範囲かな(笑)。と。

最後までお付き合いくださりありがとうございました!

殿下の登場にニヤニヤしました。

こんばんは。
「面影」シリーズのおまけを楽しく拝読させて頂きました!
一ヶ月以内に三作品を仕上げられたmoaさまが素晴らしいです!!

私個人としては、殿下が登場してくれて嬉しかったです(笑)。
誕生日記念作品万歳です。
そして、耳元ネタということで、囁く殿下にドキドキしました(笑)。
ミレーユの傍から離れる時に、必ず手に口付けをする殿下は紳士だと思います。
ミレーユを一人の貴婦人として大切に扱ってくれていることが分かり、いつもニヤニヤしながら見守ってしまいます。

そして、セシリアの刺繍ネタも素晴らしかったです!
三人の無事を祈りながら、一生懸命作ったセシリアの姿が目に浮かびました。
一番最初に白百合の刺繍を縫い終わり、その流れで白薔薇の刺繍に取り掛かったけど途中で何度も失敗して、結局ミレーユのショールを編み終わってから覚悟を決めて白薔薇の刺繍に再挑戦したのかな・・・とか想像が膨らみます。
「あの二人だけに贈って、伯爵だけにないのでは流石に不公平ですものね。ですから、これは仕方なく差し上げるのですわ」
とか言いつつ、フレッドの無事を祈りながら白薔薇の刺繍を縫いつつ、受け取った時の顔を想像(セシリア妄想では眩しい王子様笑顔)しては真っ赤になるといった感じで、一人で百面相をする可愛いセシリアを妄想しました(笑)!
・・・妄想が長くてスミマセン。
ミレーユに宛てた、最後のセシリアの言葉も素敵です。

今回も素敵なお話をありがとうございました。
充分に甘かったと思います。

桔梗さま

コメントありがとうございました!

細かい設定・・・・・なんですか?好きに書いているので自覚がないです・・・。
原作の設定が私の妄想ボタンを押しているんですよ(笑)。

刺繍・・・読んでくださった方に丸投げ(苦笑)。きっと、資料も先生も王宮は充実していると思います(笑)。

ラブ・・・でしたか?(笑)本編の破壊力が凄くてちっともいちゃついている感じがなくてスミマセン(笑)。
なんかいろいろ別人で。

綴り・文字・・・手紙が国境を越えて届くので文字も共通かな?とも思いますけどね。それぞれの古語は文字も違っていそうですが。

新刊・・・どんな方向に進むのかなぁ。と。期待と不安で楽しみすぎます(笑)。 

ロマンティック

こんばんは。

moaさまの創作は本当に設定が細かいです!
セシリアの手芸ネタとか忘れてました。
刺繍を想像してウットリしました。


そしてラブ(笑)。
うなじより上でしたか。

ラウールって、単語の綴りとか本当に厳しそうです。
それこそ、日本語のトメはねレベルで(笑)。
言語は共通らしいですが、文字も共通なのでしょうか?

そういえば、新刊まであと1ヶ月ですね~。
楽しみです。


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