2017-04

雨が上がると 10 - 2010.10.26 Tue

雨が上がると虹がかかる。

ということで、何を血迷ったのか(笑)。
降ってきたので書いてみました。

いちゃラブも原作「身代わり伯爵」の雰囲気も無い自己満足です。
双子と魔物と+αです。

出版社、原作者とは一切関係ありません。
何を読んでも大丈夫な方だけどうぞ。

以下、二次というもので。
そして無駄に長いかも(笑)。







『運命の相手』


「フレッド、いるー?」
扉をノックしてゆっくりと開く。今日一日の予定を終えた夕食前のひと時。
ミレーユはフレッドがいるはずの「ミレーユの部屋」を訪れていた。

波乱含みの交流会も終わり、後始末にも一段落ついた所だと護衛役であるロジオンから先ほど教えてもらえた。
そんな事件の直後でも、花嫁修業は予定を変更することはない。
むしろ、そうした輩に付け入る隙を与えるものかと、より気合を入れて各授業に臨んでいた。

女官候補として、共に授業を受けている令嬢達との交流もまた、よい刺激となっていた。
彼女達の知識や振る舞い。参考にしたい事柄は山のようにある。
また、負けず嫌いな性分である自分には、一人きりで受ける授業以上に効果的だったようだ。
クライド婦人曰く、「涙目で見つめられることが少なくなりましたわ。」とのことである。
ライバルでもある令嬢達の効果的な助言と見本が緊張をほぐしているらしい。
婚約式に向けて、より充実した花嫁修業の日々を送っていた。

「やあ、ミレーユ。ようこそ。今日の予定は全部こなせたみたいだね。いつもにも増してぼくそっくりの美貌が輝いているよ。」
机の上で書きものをしていたのか、顔を上げると、椅子に座ったまま、まぶしい笑顔でフレッドが振り向く。
「・・・・・その恰好で言われても、微妙な気分にしかならないわ。」
扉はそのままに、フレッドのいる机のほうへと歩みを進める。

ミレーユの身代わりとして過ごしているため、フレッドもドレス姿でいることが多い。
今も、深い青色のドレスを身にまとって、顔には薄化粧も施している。
黙っていても令嬢そのままの姿である上に、その振り向く所作ですら、計算されつくしたように優雅さを誇っている。

毎日毎日、妃殿下として恥ずかしくない淑女へと過酷な練習を重ねているはずの自分。
その同じ顔、姿で遥か先を行く人物が、実は兄だなんて複雑な気持ち以外の何ものでもない。
恨めしげにじっとりと見つめる妹の視線に気付いてか、
「ふふふ。そんな顔もとっても可愛いんだけど。」
とぱちりと片目を瞑って微笑む姿は参考にするべきだろうか・・・・・?

「・・・・・今日は夕食を一緒に食べられると聞いたんだけど。」
過密な予定をお互いにこなしているらしい兄妹は、時々でしか、同じ時間を過ごすことができない。
その時々に父親であるエドゥアルトも参加することがあるが、今日は都合が悪かったらしい。
こちらに到着する前に父に割り当てられている部屋へと行ってみたが、すでに不在であり、置手紙が残されていた。

─ ミレーユへ ─
 今日は残念ながら、夕食を一緒に出来ないけれど、パパは毎日だって、毎回だって一緒に食べたいと思っています。今日は一緒に食べることは出来ないけれど、ミレーユが傍にいると思って、パパも食べることにします。ミレーユも忘れないで思い出してください。
   ─ 大事な宝物へ 愛をこめて パパより ─

食事の作法も授業の一環に含まれているため、王弟でもある父の姿を参考にしようとミレーユは最初張り切っていた。
しかし、家族三人の食事が余程嬉しいのか、デレデレとした笑顔のまま手に持ったフォークを取り落としている間に、食事の時間が終わってしまっていた。
フレッドは「いつものことだからー。」と優雅に食事をすすめていたが、フレッドの方が余程参考になる。
そう思ってしまったミレーユだった。

父のあまりの姿に心配になって、ある時、リヒャルトにこっそりと確認してみたが、特使として他の貴族と同席している父はそれなりに立派な姿でいると聞いて、随分と安心した。
アルテマリスにいた頃は、もう少ししっかりしていたような気がするけれども、母の料理とは違った貴族の食卓に目がくらんで、ミレーユ自身も父の姿をあまり見ていなかったのかもしれない。
どこにいてもあまり動じることのない兄が、ちょっと頼もしくも感じられる時だった。

「うん、お父上はいないけど、夕食は彼が今日は一緒だよ。」
リゼランドでの母と祖父との食卓を考えていたミレーユはフレッドの言葉に我に返った。
「・・・?彼って?リヒャルトのこと?」
なかなか会うことの出来ない恋人のことを思い出してミレーユが思わず微笑む。
「またまたぁ、可愛い顔・し・て。残念だけど、フランソワーズの・こ・と。」
やけに嬉しそうにそう言うと、フレッドは自分の足元に視線を動かした。
つられたミレーユがその先に見たものは、専用の籠にうずくまったまま、顔を上げた人面犬であった。

「うっ!!うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!っっ!!怪物ーっ!!!」
館中に響き渡りそうな声でミレーユは絶叫すると、入ってきた扉の外まで猛然と駆け戻っていった。

そんなミレーユの姿を面倒くさそうに確認すると、
『・・・・・相変わらず失礼な妹だな?おい。』
フレッドの方を見ながら、フランソワーズと呼ばれた人面犬はゆっくりと立ち上がった。

「うーん。先刻から、きみがいるのに気付いてないあたり、見なかったことにしてるのかな?とは思っていたんだけど。」
フレッドは何事もなかったように、ウキウキとして人面犬と会話を続ける。
『・・・・・。前にも言ったと思うが、若い娘に悲鳴を上げられたら傷つくんだよ。ほんっといつか喰ってやるからな。それに・・・・・そっちのやつらもいい加減にして欲しいよな。』
苦々しげにつぶやく様子は会話だけを耳にしていると人間同士としか思えない。

ミレーユは入ってきた扉の後ろに隠れて様子を伺いながら、「傷つく。」と言われた言葉に、少し反省をする。
妃殿下として生き抜くためには、他人を直接傷つけるような言葉は選んではいけないと毎日教育されているのだ。
宮廷で生き残るためには、隙を見せたら終わりだ。そう先ほど教わったばかりだ。

「ミレーユ様。いかがなさいますか?」
扉の外に控えていたロジオンが、人面犬からミレーユを隠すように陣取ったまま淡々とした様子で訊いてくる。
しかし、その両手には、刃先をきらめかせた物騒な何かを持って・・・・・。
「うん・・・・・。とりあえず武器は要らなさそうよね・・・・・。」
ロジオンの両手と、自分の両手─標準装備の小麦丸と玉葱丸─を見つめて、それぞれにいそいそと・・・彼の様子が少し残念そうに見えたのはミレーユの見間違いではないだろう・・・手に持った得物を懐にしまった。

「ロジオンも、そんな可愛いミレーユを独り占めしていないで、部屋の中に入っておいでよ。ミレーユも、気付いちゃったら、一人で入ってこれないだろうし?」
フレッドが一人楽しげな様子で促すが、ミレーユの足はなかなか扉の内側に入ることが出来ない。
と、そこへ、ばたばたと足音が聞えてきた。

「ミシェル!?・・・いや、違った。妃殿下!今の悲鳴は一体!?大丈夫ですか!?」
先ほどの悲鳴が聞えたのであろう。何人かの舎弟を引き連れたジャックが慌ただしく駆け寄ってきた。

「兄貴サン!出入りですか?今こそ俺たちの出番です!」
「坊っちゃんはあいにく今休憩中でしたが、他のやつらが連絡したんですぐ来ますよ!」
一気に賑やかになった上に、舎弟の前では情けない姿を見せられない。

ミレーユは気合を入れなおして、団長と舎弟たちに向かうと、
「・・・・・だ、大丈夫よ!ちょ、ちょっと人面犬がいたからびっくりしただけなの!い、一回会ったことあるし・・・今はリヒャルトがいなくてどうしたらいいかわからないけど・・・フ、フレッドの友達らしいから!」
一息に説明する。うろたえた様子が隠しきれなかったが、仕方がない。

「「「・・・人面犬!?」」」
瞬間、全員の動きが止まった。気がした。

「そ、そう、か。フランソワーズ殿だったか。不逞の輩でも入り込んだかと思って、びっくりしたぞ。」
と言う団長のほっとした様子に、舎弟たちもそれぞれにうなずいている。
「・・・・・そうでしたか。人面犬さんでしたか。それなら安心ですぜ。」
「大事な兄貴さんに何かあったら大変でしたが。人面犬さんなら大丈夫ですぜ!」
口々にそういいながらも、視線を決して扉の先に向けようとしないまま、彼らは来た道を戻っていく。

「そういうことなら、規定の配置に戻らねばな。・・・ミシェル・・・っと違った。妃殿下。何かありましたらいつでも駆けつけます。・・・・・ロジオン、頼んだぞ。」
「は。」
団長とロジオンの間で、暗黙の指示がやりとりされると、
「フレデリック殿。フランソワーズ殿。そういうことなので、我らは所定の位置に戻ります。」
扉の内側に声をかけると、悠然と見えなくもない後ろ姿を残して、ジャックは去っていった。

「と、言うことだから、早く入っておいでよ。」
のほほんとフレッドが促す。
「・・・・・わかったわ。」
団長と舎弟の去った後を呆然と見つめたまま・・・このまま後ろについて行きたい衝動に駆られたが、扉の方を振り返って、観念したようにミレーユは返事をした。

今の騒ぎで先ほどまでの恐怖は少し薄らいだものの、怖ろしいことには変わりない。
傍にいるロジオンをそっと見やると、淡々とした様子でミレーユを見つめている。
「・・・・・先に私が入りましょうか?」
「・・・・・申し訳ないけど、先に入ってくれる?」
ほんの少し涙目になってすがるような表情を見てしまったことを若君に報告せねばならない。
そうロジオンが思ったことはミレーユには知る由もなかった。

「こんなに素敵な彼なのにね。」
『伯爵の神経がおかしすぎるんだ。』
うっとりとフランソワーズを見つめる兄と、呆れたように返事を返す・・・というより、兄よりも常識的なことを話しているその生き物に少し近づく。
「この前の夜から、紹介しそびれちゃったけど。リヒャルトから聞いた?」
フレッドが嬉しそうにミレーユに訊ねるが、
「ううん。・・・・・結局何も聞いてないわ。」
記憶の彼方に置いてきてしまおう。と思っていたあの散々な夜をミレーユはまた思い出すことになった。

人面犬との初めての出会いは怖ろしいものだった。
夜中にぺたぺたと顔をはたかれて目が覚めると、脂ぎったおじさんの顔があったのだ。
思わず悲鳴を上げてしまったが、とりあえず張り倒そうと思って、勢いよく起きあがり、鉄拳をお見舞いするところが、目測を誤って、寝台から転げ落ちてしまった。
その時に、強か額を床に打ち付けてこぶを作ってしまった。
鈍く痛む額をそっと確認した後、思わぬ強敵の登場にミレーユは気合をいれて立ち上がる。

月明かりに照らされた寝台の上で、
『よくもオレの杏のタルト喰いやがったな?』
耳まで裂けそうな牙の見える口でそう宣言した、人ではない姿を見た瞬間、先ほどよりも大きな絶叫を上げると、ミレーユの意識は途切れてしまっていた。

名前を呼ばれて、次に気が付いたときには、リヒャルトの顔があった。
まだ、夜中であるのか、辺りは暗い。(こんな時間に起こされるなんて、何事かしら?)と思った瞬間。
先ほどの怖ろしい生き物の声が部屋に響いた。

それから、また記憶が途切れている。
ただ、手当たり次第に何かを投げようとしていたのか、リヒャルトに腕をつかまれて、落ち着くように促された。
そのまま、リヒャルトにぎゅっと強く抱きしめられて、動揺がおさまったことは覚えている。
フレッドが遠くで何かを言った後、その生き物は部屋からいなくなっていた。

その後、一安心したのか、次々に額の痛みと後頭部の痛みがやってきた。
あまりの痛みに口に出してつぶやいてしまったらしい。
「何か冷やすものを。」と聞えたリヒャルトの言葉に、彼の優しさを感じたけれど。
痛みの原因である寝台から転げ落ちた理由に思い当たって、部屋の中に一人で取り残される恐怖が瞬時に襲ってきた。
と同時に、いつ現れるとも知れない怖ろしい魔物を一晩やり過ごすことなんて出来ない。と思ったことまでは覚えている。

夜中に起こされたせいなのか、あまりの恐怖に無意識に心を無にしていたのか。
気が付くと、水枕と額にも冷たい布が当てられたまま、寝台の上で眠っていた。

辺りを見回すと、父であるエドゥアルトがリヒャルトに何かを言っている。
・・・やかましい。と夢うつつに起こされたのは、この話し声だったらしい。
「夜這いは禁止だと言ったはずだ!そんな不埒者に育てた覚えはない!」
こんな夜中だというのに、大声で叱りつけている様子がわかった。

「リヒャルトは魔物から守ってくれたのよ。」
と庇うと、先ほどまでの凄まじい形相から一転して、
「ミレーユ!!目が覚めたのかい!大丈夫かい!?」
と心配そうに顔を覗き込んできた。

その時機をうかがっていたのか、
「なんにしろ、こんな時間ですから、お静かになさってください。・・・・・妃殿下。お一人で大丈夫ですか?」
と、扉のすぐ外側で団長の声がした。
その頃には、夜明けも近いのか、次第に部屋の中も明るくなってきていた。これならば一人でも大丈夫だ。それよりも今日から交流会が始まるのだ。
「睡眠不足はお肌の大敵ですのよ。」アリスさまの教えが頭の中に響き渡った。

寝不足でぼんやりしたまま始まった交流会だったが、誘拐未遂事件とマージョリーさまの第二試験のことで頭がいっぱいで、今の今まで、人面犬の事は綺麗さっぱり忘れていたミレーユだった。単に思い出したくなかったのかもしれない。

『それにしても・・・・・。失礼だということは変わりねぇが、オレの事を初めて見たときに大爆笑しやがった伯爵と同じ血が流れてるとは思えねぇな。』
じろりと見られて、ミレーユは思わずびくりとしてしまったが、その口調が下町時代に聞き慣れたものであるため、少しずつではあるが、正視できるようになって来た。
・・・・・ロジオンの陰に隠れているせいかも知れないが。

「初めて見た時にって、そういえば、いつ、どこで、どんな風に知り合ったの?・・・・・そして何者?」
こんな姿をしたものは、リゼランドにいた頃の舞台でも見たことはない。
シアラン宮廷でもいくつか観劇したけれど、こんな魔物は登場しなかった。

「そういえば、レルシンスカさまがおっしゃっていたけれど、ミレーユ姫の噂の中に、このフランソワーズさんがいたのよね。・・・・・実物を見たら、誰もあたしに何も言わなかったことがよくわかるわ。」
いくら貴族でも、このような姿を見たら、見なかったことにしたいのかもしれない。
あえて、話題に出したレルシンスカは、やはり近衛騎士を目指しているだけあって、怖れ知らずなのかもしれない。それとも、笛で馬の群れを操れるほどだから、一見、犬である魔物一匹くらい操れるのかもしれない。

そんなことを思いながら、じっくりと観察していると、
『・・・・・言うに事欠いてすごい事言いやがるな。さすが伯爵の妹だ。・・・・・ラドフォード卿も物好きだな。あんまり伯爵とも長い付き合いだから、麻痺してんのか?』
不躾な視線を送るミレーユを不快に思ったのか、フランソワーズは眉間にしわを寄せてつぶやいた。

「リヒャルトを知っているの?ってアルテマリスにいた頃から、お友達だったの!?」
意外な名前の登場にミレーユが驚いていると、
「そうだよ。もう、随分経つことになるね。まあ、話すと長くなるから、夕食にしようよ。アンジェリカ、そろそろ用意は出来ているだろう?」
さらりとフレッドが夕食に促すと、
「はい、もちろんですわ。フランソワーズさまのご用意も整っております。」
いつの間に現れたのか、アンジェリカがにこやかに微笑んだ。

和やかな夕食の場で話された彼らの出会いは、お互いに劇的なものだったらしい。
フレッドの語ったその内容は、いつもながら少し誇張が入っている。とユーシスから真相を聞いているアンジェリカには解っていたが、むしろ、創作活動の糧になるとうっとりと聞き入っていた。

大げさに語られた二人の出会いの物語で、フレッド自身は自らの勇者の資質を確信するにいたり、フランソワーズは、呪いを解く方法に一歩近づけたと考えた。
永い時をその姿で生き続けてきた彼の苦悩を兄の身振り付きで聞いていたミレーユは思わず同情の涙をこぼしてしまった。
「そんな醜い姿のまま生き続けなければならなかったなんて!」
『・・・・・おい、ほんっと失礼にも程がありやがる!ってか、大半が伯爵の脚色だって気付けよ!』
フレッドの語る二人の出会いの物語が終わる頃には、充実した晩餐も終わりを迎えていた。

「あたしも、フランソワーズさんの魔法が一刻も早く解けるように何でも協力するわ!」
感極まったミレーユは涙を流しながら立ち上がって宣言した。
『・・・・・それはありがとう。じゃあ、お姫様のキスってのをしてくれるのかな?』
呪いが解けるという秘密をさらりと告白したフランソワーズの言葉に、
「ええ!女に二言はないわよ!!・・・・・・ってキス?」
ミレーユがぎょっとして目を瞠る。

思わず売り言葉に買い言葉で言い切ってしまったが。すごいことを言ってしまった気がする。
「そう、キス。おとぎ話でよくあるだろう?」
フレッドが楽しそうに確認する。

「ぼくは男だから、残念ながら試しても効果が見込めないんだよね。同じ話を聞いたヴィルフリート殿下も試してみたかったみたいなんだけど。」
「ええっ?あんたはともかく、ヴィルフリート殿下まで!?」
・・・むしろ今のミレーユのように、勢いだけで言ってしまったのではないだろうか?それとも、着ぐるみをこよなく愛する彼のことだから、形は犬であるフランソワーズの着ぐるみを作らせてみたりするのだろうか?
この脂ぎったおじさんの顔が殿下のような稀に見る美少年ならば、キスをする姫君は現れそうな気がするが。

『いくら若くて美形っつってもなぁ。男じゃ仕方ないんだよなぁ。』
がっかりしたようにフランソワーズも同意する。
『美しい姫君の口付けで呪いが解けるらしいんだなぁ。こ・れ・が!』
ニヤリと笑って、ミレーユの唇をじっと見つめる。

何でも協力すると言った手前、後には引けない。
なぜか暑くもないのに・・・むしろ、寒くなっている気がするのだが、背中を汗が伝っていく感触がした。
ミレーユは数瞬、床を見つめると、決心したように顔を上げた。

「わかったわ。キスするわ!女に二言はないのよ!!」
フランソワーズの瞳をじっと見つめると、高らかに宣言した。

「・・・・・誰とですか?」
部屋の中に、聞きなれた声が響いた。

「もちろん!フランソワーズさんとよ!」
握りこぶしを突き上げて相手の名を宣言したミレーユの熱い声とは裏腹に、
「それは、何かの冗談ですよね?ミレーユ。」
部屋の温度が一気に下がった気がした。

『・・・・・も、もちろんじゃねえか!な!伯爵!!ミレーユ姫の運命の相手はラドフォード卿だからな!』
先ほどまでのニヤリとした顔はどこへやら。フランソワーズは焦ったようにうろうろと部屋中を歩き回り始めた。
「そうだねー。運命の相手は一人きりらしいからねえ。フランソワーズが相手だと、リヒャルトはミレーユの相手じゃないって事になるねー。」
のほほんとフレッドが答える。
『そうだろ?ミレーユ姫の相手は、ラドフォード卿だしな。それに、美しい姫君っつってもな。オレは貧乳は好みじゃないんだよな?やっぱ出るとこ出てねぇと・・・な!』
唯一の逃げ場である扉には殺意を露わにした伝説の野獣がいる。魔物とはいってもしがない人面犬である自分にはとても勝ち目がない。笑顔を引きつらせながら、フランソワーズはフレッドに同意を求めた。

「な!・・・・・なんですって!誰が貧乳よ!!」
聞き捨てがならず、ミレーユがフランソワーズの言葉にかみつく。
「ミレーユ。俺が運命の相手では不満ですか?」
いつの間にか近づいていたリヒャルトが少し切なそうな顔をして、ミレーユの顔を覗き込んできた。
「え!?不満なんてあるわけないじゃない!!あなたみたいに顔も声も性格もいい優しい人なんてあたしにはもったいないくらいよ!」
思わずまじまじとリヒャルトの瞳を見つめてミレーユは本音を口走る。
「それならよかった。」
そう言って、リヒャルトはミレーユを抱き上げると、
「じゃあ、あとのことは頼んだ。ハワード卿。」
廊下に控えていたイゼルスに指示をすると、一階へと続く階段をゆっくりと降り始めた。

「部屋を確認してまいります。」
いつの間にか先行したロジオンが、階下へと消えていく。
「え!?部屋に戻るなら、歩いていくわよ?」
慌てたように、リヒャルトの腕から降りようとすると、
「今、降りられるとかえって危ないので、大人しくしていて下さい。」
「で、でも、重いでしょう?」
「全然?」

先ほどの夕食はとても美味しくて、たっぷりと食べてしまった。
毎日多量の書類と向かい合わなくてはならない彼の、酷使される腕の負担にはなりたくないと日頃から思っているのだ。
そのうえ、近すぎるリヒャルトの笑顔にミレーユ自身の心臓に多大な負担がかかるのだといつになったらわかってくれるのだろうか?それとも、これはいつもの意地悪なのだろうか?
頬が赤くなっていくのを止められないまま、顔を見られないようにうつむく。
酔い止め薬の甘い香りがミレーユの鼻をくすぐった。

「部屋の確認は終わっております。」
ロジオンに案内されて、居間に入ると、ゆっくりと長椅子に下ろされた。
「ありがとう。運んでくれて。あなたも座って。」
ミレーユが促すと、リヒャルトはにっこりと微笑んで、隣に腰を下ろした。

「ありがとうございます。ところで、先ほどの件なんですが、一体どういうことですか?」
「え?先ほどの件って?」
きょとんとして、ミレーユは訊き返す。
「俺以外にキスをすると言っていた件ですよ?」
リヒャルトはミレーユの手を取って、甲に軽く口づけると、そのまま指を絡めて強く握った。
魔物ですら怯える野獣の瞳がきらりと光ったような気がしたのはミレーユの気のせいではないようだ。

『・・・・・命拾いしたぜ。ハワード卿だっけ?これは借りにしておいてやるよ。』
二人の気配が階下に消えた頃、大きな溜息と共にフランソワーズは大公の護衛役に顔を向けた。
「わかりました。特に何をしたわけでもありませんが第五師団の働きとして計上しておきます。」
先ほどの大公殿下の殺意と目の前の魔物にも、眉一つ動かさないままイゼルスは答える。

「妃殿下への伯爵閣下のご用件はお済みになったのでしょうか?先ほど団長からフランソワーズ殿に関しての報告がありまして、妃殿下を心配なさった大公殿下が急いで仕事を片付けて、様子を見に来たのですが。」
淡々と用件のみを伝えるイゼルスにフレッドがのほほんと答える。
「うん。夕食は食べ終わったし。その時にフランソワーズの紹介をしたんだけど。ミレーユは彼の話に感激して、深く同情してね。さすがぼくの妹だよね。彼の呪いを解くキスの話に乗り気になったという訳さ。」
『半分は伯爵のほら話だろうが。危うく呪いが解ける前にあの世行きだっただろうが。』
呆れたように突っ込みが入る。

「さてと、アンジェリカも二人を追いかけていったことだし。彼女が用意してくれたお茶と杏のタルトを楽しもうか?」
『ちっ!その杏のタルトはオレのもんだ!わかってるだろうな!伯爵!』

そんな二人の会話を耳に入れながら、人面犬と第五師団との邂逅をイゼルスは思い出していた。
衝撃的ではあった。が、それどころではない事態が推移していた中であったので、意外とすんなりと受け入れられてしまった。
まあ、それ以上にミシェルが正真正銘女性であったことで、多大なる衝撃を受けて鈍くなっていたせいかもしれない。それとも、犬の大きさよりも、人間の方が大きいという単純な理由だろうか。
姫君のキスで呪いが解けて人間に戻る。という不思議はいつ解けることになるのか?
冷静な視線で観察を続けるイゼルスにも、その答えの片鱗を今は見つけることが出来ないのであった。

~終わり~

・・・・・最後までお付き合いくださりありがとうございました。
ええ、本当にどなたが最後までお付き合いくださっているのか・・・・・。
いろいろと失礼いたしました。

一応、10月なので双子の誕生日記念。・・・白薔薇乙女ですもの!(笑)
双子がいい思いをしたのかというとそんなことはなかったのですが・・・orz。
誤解を解いたリヒミレと安堵した階上の人たちのお茶会がきっとお菓子満載で開かれたことかと思います。

ハロウィンな魔物ネタ?魔女は出せませんでしたね。
・・・ハロウィン
収穫祭かと思っていたら、どちらかというとケルトの大晦日的なイベントなんですね。
・・・・・認識間違っていたらごめんなさい。ご指摘ください。

フランソワーズと舎弟の語尾が・・・難しすぎる・・・orz。
団長と副長がちらりとでも出せて満足です(笑)。






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